もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲3

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なし もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲3

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 | 投稿日時 2013/5/31 17:04 | 最終変更
hiroko  レギュラー   投稿数: 53

 ソクラン



ゴヌがルミの病室を出たあと、ヨンギとジュヒ、ジュヨンがルミを訪ねた。

みんながルミを励まそうとしていた。

ヨンギが面白おかしく、マウスフィルメンバーの近況を話し、和やかだった。

話によるとマウスフィルはしばらく自分たちだけで練習することになりそうだった。

ゴヌが大学受験を前に、受験勉強とピアノの練習に集中するためだ。ゴヌはピアノを始めたばかりで相当練習をしなくてはいけない。

だが、手をやいたのはピアノでも、ソルフュージュや、和声学といった科目でもなく、一般学力をみる受験科目だった。

高校卒業して随分経つのと興味がまったくわかないのが問題だ。

音大の指揮科は難関だ。

勉強の合間をみて、マウスとの練習も続けるのは無理だった。



ヨンギが屈託なく言った。

「ゴヌもしばらくこられないんじゃ、マウスも締まらないよな。

ガビョン先生もいないし、俺たちだけでまともに練習できるんだか…カン・マエに叱られるんでもなけりゃ、やる気おきないよ。

こんな時はルミちゃんがガツンとさ、一発言ってくれなきゃな。」

ヨンギはルミが一緒にやれたらいいと単純に思ったことを口にしただけだった。

もちろん、それはルミにだってわかっている。

だが、ルミには引っかかった。

ルミは表情をこわばらせた。

それに気づかず、ヨンギは続けた。

「俺たちだけじゃ、ホント不安だよ。」

「わたひ、もうみんなとは演奏できないのよ。」

ルミの表情に気がついたジュヒがヨンギに代わって言った。

「ルミさん、ごめん。ルミさんがバイオリン手放したこと知ってる。まだ、気持ちの整理だってできてないよね…」

ルミはまだ、表情が硬い。

「みんな、ゴヌや他の誰かを頼るのはやめたほうがいいよ。

そんな考えじゃ、マウスは続かない。これじゃ、カン・マエに怒られていた時と何も変わってないよ。」

ルミはきっぱりと言った。

それきり、話は途切れてしまった。ジュヒやジュヨンが取り繕ったが、結局ヨンギたちは気まずく帰っていった。



ルミはみんなの帰った後もモヤモヤしていた。

部屋にいられない気がして、テラスに出た。日差しが暖かで椅子に腰掛けた。

『あんな言い方しなければよかった…』自分で言っておいて後悔した。

自分が他の誰にも依存したくないという気持ちは本心だ。

みんなだって誰に頼らなくても自分たちだけでも進んでいく気持ちでいてほしい。

かといって、ヨンギに仲間として頼られたのは嫌じゃなかった。

なにより、一緒に演奏できないことが、寂しく、悔しくつらいのだから。

混乱しているのだ。

手術を前に、自分で思う以上にナーバスになっているのかもしれななかった。

『それでも、みんなにあんなふうに言っちゃうなんて、馬鹿だな。』

自己嫌悪。ルミは自分の頭を小突いた。


 テラスには先客がいた。

さっきからのルミの様子を見て微笑んだ。

年齢は自分の母親くらいだろうか。優しげな婦人だった。

ルミは決まりが悪くて、軽く会釈すると、あわてて持ってきた雑誌で顔を隠した。

それは発売したばかりの音楽雑誌だ。

中ほどにカン・マエのミュンヘンフィル就任の記事があった。

記事を書いたのは例の厳しい批評家で、ルミは何が書かれているのかとハラハラした。

だが、読むと内容は好意的で、結びの言葉は

『おおいに期待する。』というものだった。

ほっとして、さっきの決まり悪さを忘れた顔をあげると、先程の婦人が声をかけてきた。

『マエストロ・カン・ゴヌ。ファンなのかしら?有名な指揮者よね。」

ルミはうまく読唇できず困って言った。

「すみません。わたし耳が悪くて。もう一度ゆっくりお願いできますか?」

「まあ。ごめんなさい。わたし、マエストロ・カンの小学校の担任だったの。」

「え〜」

思いがけない出会いに驚き、ルミは持っていた雑誌を落としそうになった。

「わたし、ソクラン市響にいたんです。カン先生とご一緒したんです。」

「まあ、あの第9の演奏会の時もかしら?あれはすばらしかったわ。お耳が悪いなんて、さぞかし大変ね。」

「あの、カン・マエ…いえ、カン先生の子供の頃はどうだったんでしょうか?」

婦人の顔が昔を懐かしむような表情を浮かべた。

「そうね、勉強がよくできて。とっても頑張り屋で負けず嫌い。」

「カン・マエにも子供の頃があったんだ…」

ルミにもカン・マエの幼い頃が想像がついた。

 

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