もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲4

このトピックの投稿一覧へ

なし もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲4

msg# 1
depth:
0
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 .3 | 投稿日時 2013/6/3 8:35
hiroko  レギュラー   投稿数: 53

ソクラン〜Hospital



「彼に最初にピアノを教えたのは私なのよ。」

いたずらっぽく、彼女は片目をつむった。

「彼は小学校の入学前から、放課後にわたしがピアノ」を弾いているのを毎日見にきていたのよ。」

マエの子供の頃が聞けるとは思わなかったルミも偶然の出会いを喜んだ。

「ピアノに興味があったのね。彼、物覚えも耳もよくてね。すぐ上手くなっていったのよ。」

婦人は自分の息子のように自慢げだった。

「彼は母子家庭でね。生活が大変な時もあったの。

だから彼を勇気づけるためにも、わたしもずっとピアノを教えたのよ。」

「わたしも先生が苦労したこと、聞いたことはあります。」

思い出を話すうち、婦人の顔から微笑みが消えた。

「辛いこと多かったと思うのよ。水害で家も無くして。クラスメイトたちにいじめられたこともあってね。」

「いじめっ子のような先生がいじめられていたなんて、信じられない。」

「クラスにお金持ちの息子がいて、他の子がいじめられているのをとめたのがはじまりでね。

要領のいい子は普通は、周りの空気をよんで、いじめられないように周りに同調して身を守ったりするんだけど。

彼はそうしなかった。いじめられても、抵抗していたわ。喧嘩でも彼は折れなくて。

わたしもいじめをなんとかしようと思ったのだけど。新人だったわたしじゃうまく指導できずにいたの。

そうこうしている間に頑固なゴヌ君に、結局いじめっ子のほうがいじめに飽きちゃったくらいなの。」

「いじっぱりの先生らしい。」

「ピアノも卒業まで教えてあげたかったけど、その頃にも大きな水害があってね。本当に大きな水害だった。

あの子の家も流れて、お母さんも具合が良くなくて苦労したはずなの。学校の周囲すべて被害にあって。

学校は避難所になって授業は再開されなかった。

彼のお母さんもしばらくして亡くなって。

たったひとり、お姉さんとも離れてどこかに引き取られていったわ。」

誰も頼れなかった子供の頃のマエ。

「結局、何も力になってあげらなくて。

だからこそ、彼が指揮者になったと知った時は嬉しかったわ。」


 婦人は別れ際にルミの手を取った。

「マエストロ・カンの話ができて嬉しかったわ。

歳をとって、病気になって気分が優れないことも多かったけど、彼の演奏を聴いた時とても勇気付けられたわ。

以前は、演奏をドタキャンすることもあったのに、今年の水害のときには素晴らしい演奏を聴かせてくれた。

あなたも、あの演奏のメンバーだったなんて!本当にありがとう。」

ルミも彼女の手を握り返した。

「いつか、またマエストロに会うことがあったら、伝えていただけるかしら?

あなたの演奏を楽しみにしているファンが韓国にもいることを忘れないでくださいとね。

長い話をしてしまっってごめんなさい。

あなたも、明日の手術頑張って。」



ルミの髪は手術のために短く揃えられた。

病室で独りベッドにいると、明日の手術を考えてしまう。心細かった。

不安は手術を離れ、これからの自分の行く先にも広がる。

『作曲という道を進んでいいの?』

『わたしの曲を人に聴かせられるの?そもそもまともな曲ができるの?』


左の指の指輪を握りしめた。

マエがくれた指輪。

『強くなれ。』マエは渡した時そう言った。

ー誰もお前の苦しみを代わってはやれない。独りで耐えるしかない。私にはお前の苦しみに何もしてやれない。ー


先生が耐えたように、自分も独りでできるだろうか?この不安に立ち向かうことが。

 

投票数:0 平均点:0.00

投稿ツリー

  条件検索へ