もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲6

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なし もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲6

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 .3 .4 | 投稿日時 2013/6/7 21:28 | 最終変更
hiroko  レギュラー   投稿数: 53

 

ソクラン〜Approach



ルミは手術のあと数日で作曲の勉強を再開した。少しでも早くはじめたかった。

「あまりこんをつめると、頭痛がひどくなりますよ。それくらいにしませんか?」

来室者を知らせる合図に驚いてドアの方を見ると、部屋に入ってきたのはリハビリのセラピストだった。

「シヌ先生。」

そのセラピストは聴覚を失ったルミの生活指導にたびたび部屋を訪れていた。

若いが患者を相手にしている職業がらだろうか優しく話す、落ち着いた雰囲気を持っている。

「そうだ、庭にでましょう。今日は暖かい。」

「でも、次のワークショップまでに済ませておきたいので…」

「そうだ。春までに花壇を増やしてるんです。見に行きましょう。」

ルミはやや強引に連れて行かれた

だが、出て見ると、外の空気は冷たいが、日差しが気持ちいい。

ルミが笑顔で伸びをして、大きく息を吸い込んだ。

「気持ちいい!」

「出てきて良かったでしょう。」

二人は、顔をみて微笑んだ。

庭を歩きながらルミは何度も目を閉じて立ち止まる。

『この風や、木の枝の揺れる音を感じたい』

まるで、そう思っているかのようだ。シヌはその様子を穏やかに見守っていた。

振り向いたルミにシヌはゆっくり大きな動きで話しかけた。

「ルミさんの造る曲はどんな感じでしょう。」

「さあ、まだ形にもなってないんです。」

そう話すと、ルミが不意に思いだし笑いをこぼした。

シフは急に笑い出したルミを不思議そうに見た。

「ごめんなさい。つい思いだして。」

ルミは笑いながら、わけのわからないシヌに説明した。

「昔、作曲の講義を聴講していたら、教授に即興でメロディを作らされたことがあって。」

ルミが聴力を失うとわかって、作曲を始めるのを思い立ち聴講した時のことだ。

講義は『対旋律』だった。

教授は対旋律の説明をこう例えた。

『あなたは、森を歩いている。そんな自分(主旋律)の後を誰かがそっと着いてくる。それが対旋律だ』

ルミはその時、マエとのちょっとした散歩を思い出して曲にした。

「その時わたしがイメージしたのが、丁度こうやって散歩したときの事だったんです。

わたしの曲を教授は『トゲトゲしい』曲だって言われて。一緒に歩いた人の性格に問題があるんだろうって。」

ルミはあの講義の時と同じくマエの顔が浮かんできて可笑しかった。

公園を散歩した時のぎこちなくて、戸惑った表情。ちょっと楽しんでいるのに、ルミに見せないところ。

「そんなに気難しい人とデートしたんですか?もしかしたら、その指輪の人ですか?」

シヌはちらっと、指輪を指した。

「デートなんて言えるもんじゃないです。」ルミは、まだ笑っている。

「でも、楽しそうだ。」シヌもつられて笑った。




「ルミちゃん、ルミちゃん!」

ヒョンはルミにわかるように大きく手を振っていた。すぐ側だが、一生懸命合図している。

「今話していた人どなた?素敵じゃない。ルミちゃん。」

「また、そんな。」

ルミはヒヨンの言葉に戸惑った。


ヒヨンはいつもとかわらぬ様子で接してくれた。おそらくヨンギからこの間の一件をきいているはずなのだ。

ルミが思わずヨンギ達に『人に頼りすぎだ』とぶちまけてしまったあの一件。

ヒヨンは笑顔でルミの部屋に花を飾ると、果物をとってくれた。

「ヒヨンさん、わたしこの間みんなに余計なことを言っちゃって…せっかくきてくれたヨンギさん達に悪いことしちゃった。」

「いいのよ。ルミちゃん。ヨンギさん鈍感だから、ちょっとくらい平気。それより…」

ヒヨンはさっきの話を蒸し返した。

「ルミちゃん。さっきの人じゃなくても、好きな人くらい作らなきゃだめよ。幸せな恋愛してもいいんじゃないの?

わたしが言うことでもないけれど…そりゃ、カン・マエは立派な人だけど。あの人は女の人を幸せにできるタイプじゃないわ。」

ヒヨンはまだ若いルミが、ミュンヘンに行ってしまったマエのことをずっと思い続けることが気がかりなのだ。

なぜ、カン・マエなのか?と思っている。

当のルミだって、『なぜ、カン・マエなのか?』はっきり説明できない。

最初はカン・マエの圧倒的な音楽の力に憧れ恋をした。

だが、そのうち彼の弱さも利己的なことも知った。ダメな所も。

それでも、カン・マエなのか。普通の恋人らしいところなんて何一つなかった。

『先生は先生だから…』としかうまく説明ができない。


 



 ルミが元気に作曲を開始したことはヒヨンがマウスの皆にも知らせた。皆安心した声をあげた

「落ち着いたら、皆でお見舞いに行きましょう。」

ヒヨンの提案にヨンギだけが躊躇した。

「俺、この間まずいこといっちゃったからな〜」

「ルミちゃんも気にしていたわ。ヨンギさんも水に流してあげなさい。

ルミちゃんだって、手術を前に不安だったのよ。ヨンギさん、気をつけてあげなきゃ。」

ヨンギはすっかりしょげてしまった。

「水にながしてわすれちゃっていいのかな?俺はルミの言ってることにも、一利あると思う。」

ヒョッコンが口をはさんだ。

「だって、そうだろ。ゴヌがもし俺たちと演奏できなくなったら、俺たちどうするんだ?」

「どうするって…」

「俺はもう会社もやめて、花屋で食っていくしかない。

だが、もう、オケを二度と諦める気はない。一度諦めかけて、諦めるなんてできないって解ったからな。

続けるためなら、いざとなりゃアマチュアのオケでも参加させてもらうさ。

そりゃ、満足いくかわからんが俺の腕ならどっか入れるだろう。お前たちはどうなんだ?考えたことあるのか?」

「ヒョッコン!お前、俺たちとは一緒にやらないつもりかよ!」

「もしもだよ!お前たちがやらないなら、俺だけでも続けるつもりだってことだよ。

俺たちに、独りでも続ける意思があるかってことだよ。」

「…」

「仲良しサークルじゃだめだってこと…」

それぞれが覚悟を決める時なのかもしれなかった。

 

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