もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲10

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なし もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲10

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/9/7 20:57
hiroko  レギュラー   投稿数: 53
新しい出会い


『マウスのみんなにあんな態度とるなんて、俺何やってんだろ。』ゴヌは帰り道後悔した。
やっぱり、人をまとめていくには俺はまだ力不足なんだ。
今までマウスのときは考えたことなかった…
オケに受け入れてもらえないことで動揺するなんて情けない。自分が小さく、女々しく思えた。

翌日、ゴヌが大学に着くと講堂に人だかりがしていた。
誰かが人だかりの中心にいるらしかった。
ざわめきがゴヌに向かってきた。どうやら集団から誰かがゴヌに近づいてきたようだった。
「あなたが、カン・ゴヌ?」
それは、ゴヌより年下の女子だった。彼女はにこやかにゴヌに右手を差し出した。
きれいに切りそろえた黒髪の下に、挑戦的に輝く大きめの瞳がある。
「私はチェ・キョンファ。あなたの事、マエストロ・カンから聞いてるわ。」
ゴヌは思い出した。
―この大学にはスター、若手バイオリニストがいる。―チェ・キョンファ。
彼女は在学中にもかかわらずいくつものコンクールで数々の賞を手にし、海外でも活躍している。
その彼女が、ゴヌの顔を見にきたという訳だった。

「私、ついおとついまでミュンヘンにいたのよ。ミュンヘンフィルと共演してきたの。
あなた、マエストロ・カンの弟子なんでしょ?」
幼い頃から、特別扱い受け、海外生活が長かったせいで、キョンファは年上にも敬語を使わない。
「カン・マエ、いや、先生元気だった?」
「ええ。噂どおりだった。厳しく、いい意味で緊張感があって。安心して演奏できた…
そのマエストロに大学にいるあなたの事を聞いたから気になってたの。」
キョンファは面白がっているような笑顔を浮かべながら話した。
「先生が俺のことを?」
ゴヌのほうはちらりと、『まさか先生、俺の悪口でもいってるのか』と思ったりした。
「あなた、指揮科なんでしょう?今日の午後の練習私も加えてよ。」
ゴヌが返事を言う間もなく話は決まっていった。

キョンファが午後の練習に出るという噂はあっという間に学内に伝わって、教授たちまで見物に集まっていた。
ゴヌとキョンファは演奏前、軽く打ち合わせする時間しかなかった。だが、心配はいらなかった。
お互いの音を聞くだけですべて解決した。
キョンファはオケのことはゴヌに任せ、ゴヌはキョンファの音に沿うようにオケを指揮した。
オケの学生も、スター学生の登場に興奮していた。まるでゴヌとの確執を忘れたように、キョンファの演奏に合わせるためゴヌの指示に素直に従った。
演奏中、ゴヌとキョンファは目配せでわかりあえた。
―共鳴―
初めてあわせたとは思えないできだった。

ゴヌは今まで感じたことのない気持ちに興奮していた。
『もっとこいつと演奏したい。』マウスのみんなの時とはまた違う。一緒に演奏することが純粋にプレイヤーとして、楽しい。
彼女の音は伸びやかで、追いかけていくと自分まで高く飛び立つような高揚感。
キョンファは演奏を終えると今までの大人ぶった表情から一変して、子供のような笑顔をゴヌに向けた。
キョンファも同じことを感じたのだろう。彼女はそれを素直に伝えてきた。
「ゴヌ!楽しいかった!こんなに思いっきり演奏できたのは始めて!」
「ああ。俺も。俺もそう思った。」

練習が終わってもキョンファはまだゴヌに話し続けた。
キョンファはゴヌをホールから連れ出した。

「最初はあんまり期待してなかったんだ。カン先生は君はいい人であろうとしすぎると言っていたから。」
「いい人…」
「『オケのメンバーの言ってる事を聞きすぎると、結局オケに振り回されて平凡な演奏しかできない。』残念な指揮者っているからね。」

マウスをはじめるまで、ゴヌは平凡な将来を夢見てきた。
警察になったのだって生活の安定のためだったし、指揮者として皆の注目をあびる立場に立つなど思いもよらない生活を送ってきていた。
協調を絵に描いたような、それまでのゴヌを、真っ向否定するようにカン・マエは俺に言い続けた。
『自分の感情をおさえるな!思ったままを言え!』
だから俺は先生の前でなら、譲れないことは譲れないと言う事ができた…
先生のいたあの日々のなか、結局俺は先生の手のひらの上で、先生の存在に甘えていたのかもしれない。

「振り回されるもも何も、俺は今まで大学で何もできなかったんだ。」
「何それ?」
「俺、大学のオケから昨日まで無視されてたんだ。今日は打って変わってうそのようにオケがまとまったよ。
キョンファが俺に任せたことで、俺の指示が今までがなかったようにスムーズに伝わった。キョンファのおかげだ。」
「誰の力を借りてもいいじゃないの?利用できつ物は利用する。あなたの力でもあるでしょう?
あなたと演奏したいと私に思わせるのも実力だもの。」
「俺の力じゃないよ。」
「へーえ、やっぱり融通の利かない人だね。それで、ずっとアマチュアオケから離れられないんだ。」
「それ、どういう意味?」
「皆も噂してたわ。マウスフィルとか言うアマチュアオケと演奏会やってるんでしょ。
私も意味わからないんだよね。いつまでもそんなアマチュアと演奏してるのか。」
「アマチュア?マウスをばかにしてるのか。」
「ばかにしてるわけじゃないけど、アマチュアレベルと一緒にやっていても、自分に得るものはないんじゃないの?
モチベーションも自分のレベルもあがってこない気がする。
ねえ、わたしと演奏楽しくなかった?正直楽しかったはずだわ。
世界にはもっともっと、実力がある名演奏家は多い。もっともっと、そういう人たちとプレイするべきなんじゃない?」

ゴヌは返事に躊躇した。
マウスと演奏を続けることに意味はないとは思っていない。
だが、今のゴヌにそれをキョンファにうまく伝えられる言葉がうかばなかったから。
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