もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲13

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なし もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲13

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/9/12 22:45
hiroko  レギュラー   投稿数: 53
つながり

ゴヌは大学でキョンファを探した。
どうしても言いたいことがあった。

だがあの人気者がどこにいるのか、はっきりと答えられるものは誰一人いなかった。
「何で、誰も知らないんだよ?」
誰に聞いても居場所を知らないどころか、今国内にいるのかさえ知らないありさまだった。

やっと見つけたキョンファはひとり 自習室にいた。
ドアの窓から見えるキョンファは、ひたすらバイオリンを弾いていた。ただ、ひとりで。
ゴヌはキョンファが一息ついたところを見計らって部屋のドアを開けた。
「ああ、ゴヌ。来てたんだ。何か用?」
「お前、いつから一人で練習してたんだ?」
「わたしが?午前からずっとかな…」
「午前?もう昼過ぎだぞ。」
「ああ、もうずっとこの調子だから慣れっこよ。時間なんか忘れてた。」
「よく、集中できるな。」
「集中できなきゃ、そもそも練習なんかしないわ。子供の頃からだから気にしたこと無いな。ずっと。
3歳になるか、ならないころからの習慣。」
「それより、何で、誰一人お前の居所知らないんだよ。」
「誰もわたしがどこにいるかなんて知るわけないでしょ。だって誰にもそんな話する必要ないもの。」
「それで、お前寂しくないのか?」
「寂しい?友達がいなかったこと?そんな気持ちとっくに忘れちゃった。
音楽をやりはじめてすぐの頃は、ちょっとうまい子達は皆ライバルだった。友達じゃない。
少し、わたしが注目されはじめると、そばに寄ってくる人は、ちやほやしてくれるだけで、友達にはなれなかった。学校の授業が終われば、ママが迎えに来てすぐ練習。
同級生とは誰とも遊んだ覚えがないし、音楽以外のものには興味なかった。
友人を作るなんてとっくに諦めていたわ。」
ゴヌはキョンファ自身も忘れている寂しさを感じた。もしかしたら、この曲はキョンファも慰めることができるかもしれない。
「これ、見てくれよ。」
キョンファに差し出したのは、ルミの出来上がったばかりの曲だった。
キョンファは手にとって見ると
「ふーん。いいんじゃない。これ誰の曲?いいね。」
「俺の仲間が作ったんだよ。俺はこれをマウスで演奏したい。それにはバイオリンのソロをキョンファ、君に頼みたいんだ。」
「わたしに?」
「俺さ、お前に『マウスとなんで一緒にいつまでやってるんだ』って言われたたとき、上手く答えられなかった。
マウスの実力にも、自分自身にも自信を持ってなかったんだ。
でも、やっとわかった。俺には俺を奮い立たせてくれる仲間が必要なんだよ。仲間は俺を俺らしくいさせてくれる。俺にはマウスが必要だ。」
「うん。わかってたよ。」
「?」
「カン先生が言ってたもん。
『わたしとゴヌ。わたし達は稀に見る逸材だ』って。だけど『わたしに欠けているものを、ゴヌは持っている。それが仲間だ』って。
『だから、ゴヌは強い。ゴヌ独りでは乗り越えられなくても、仲間のことを思うだけであいつは何倍も力を発揮する。』
カン先生、そう言いながら、ちょっとうらやましそうだったから、余計にあんたのことが気になってた。」
「先生。」
「だから、あなたの才能を知って、あんたなら、わたしも友達になれるかもって思った。バイオリンしてないしね。うふふ。
けど、あんたををマウスから奪いたかったけど、できなかったみたい。」
「キョンファ…何を聞いてるんだ。マウスに来いって言ってるだろ。一度一緒にやってみようぜ。」
ゴヌはキョンファの腕をつかんだ。

ゴヌはキョンファからマエのことを聞いた帰り道、無性にマエの声が聞きたくなった。
離れていても自分たちのことを考えてくれている―そう思うと、いてもたってもいられず、国際電話をかけていた。
今韓国は18時。ミュンヘンは朝の10時頃だ。
数回の呼び出し音の後、久しぶりのマエの声だ。
「なんだ、何の用だ。もう自信を無くして泣きついてきたのか?わたしの課題は忘れていないだろうな。」
「先生。違いますよ。ただ、声が聞きたくて。」
いやみを言われてもつい笑顔を浮かべるゴヌだった。
「?なっ、何を、女子高生みたいなことを言っているんだ!どこか、具合でも悪いのか。お前はいつからそんな趣味になったんだ!」
「…先生。そうだ、キョンファに会いました。今度、マウスにも顔を出してくれるそうです。」
「あいつは、お前らとは違う。超一流のソリストだぞ。マウスなんかに着き合わせるなんて。貴重な時間を無駄づかいさせるな。
それより、お前は大学でちゃんとやっているのか?マウスもまともな演奏はできているのか。」
「そうですね、迷ったり、つまずいたりしながら、でもなんとかやってます。」
「そら、みたことか。わたしは忠告したぞ。『茨の道』だと。生易しい道ではないと言ったはずだ。
生半可な気持ちで進めば、失うものの多さに傷つくのはお前達だ。」
「わかっています。でも、俺達は大丈夫です。
俺達には仲間がいます。それに…それに、道しるべになってくれる先生もいますから。でしょ。」
「ばかもの。だからお前はいつまでも大人になれないんだ。まあ、いい。
どんなやりかたでもいい。だが、忘れるな。
『自分の心に正直でいろ。心のまま進め。』
自分の心に嘘をついていてはは誰の心も動かすなど無理だからな。お前の思うようにやれ。」
「はい。先生。」
ゴヌはマエの声が本当に聞きたかったんだと心の底から思って、泣けてきた。それを誤魔化すように、話題を変えた。
「そうだ、先生。ルミ退院するそうです。」
しばらくの沈黙のあとマエは
「そうか。…あいつのことだ、ひとりでもめげないでやっているだろう?」
マエの声は『あいつのことはわかる。』とでも言っているように聞こえた。

ゴヌはマエとの電話を切って歩き出した。ルミも俺もマウスも先生だって、こうやってずっとつながっているのかな。とゴヌは思った
お互いにお互いの存在に支えられている。
空には丸く大きな月が出ていた。ゴヌの心のなかのように煌々と夜道を照らしている。

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