もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲7

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 .3 | 投稿日時 2013/6/12 21:04
hiroko  レギュラー   投稿数: 53

ミュンヘン~Avenue



マエにもゴヌからメールでルミの手術の成功が伝えられた。

だが、マエにはそれ以前に友人で、ルミの主治医でもあるドンギルから連絡はもらっていた。

「手術は無事終わったぞ。聴力はやはり温存できなかった。」

「そうか…」

マエ努めて冷静に答えた。

「慰めてやらないのか?何か伝言があれば伝えてやるぞ。」

「…いや。慰めなど今のあいつのためにはならんだろう。忙しいのに悪かった。」

「相変わらず、クールな男だな。また、変わったことがあれば連絡してやるから。」

「いや。気を使ってくれなくていい。ありがとう。」

マエは電話を置くとソファの上で腕組みして目を閉じた。閉じた目に浮かぶのはルミの顔だった。

その顔は相変わらずへらへらっと笑っている。

『わたしが今ルミにできることはない…ルミの病気はルミが乗り越えるしかない。』

そうは考えていても、気にはなっていた。

まずは手術がうまくいったのだ。マエは少しほっとした。だが聴力を失ったことにはやはり胸が痛む。

作曲の方はどうなんだろう。まあ、編曲はまあまあ上手くやっていた。

それだけで、将来ひとかどの作曲家と呼ばれるまでになれるとは思わない。

「まったく、どうするつもりなんだ。」

ほっとしたのもつかの間心配は尽きない。

愛犬のトーベンが主人の気持ちを和ませるかのようにマエの足に擦り寄ってきた。

昔から、トーベンはマエの気持ちの変化を察知する犬だった。

「トーベン、今日はちょっと遠くまで散歩するか?」

トーベンをつれて散歩に出かけることにした。


 街は冷たい空気が澄んでいる。今日は寒くても天気が良いのでぶらぶら歩いている人も多い。

「トーベン、ルミの手術がうまくいったそうだ。そうか、お前もうれしいか。」

こうして歩くと思い出す。ソクランでは、トーベンとの散歩の途中でルミによくあった。

ルミとの会話のひとつひとつ、その時々の表情。

わたしをサリエリのようだと言った時、ずいぶんはっきり物を言う女だと思った。

マエは腹が立つより、自分に近いものを感じた。

ゴヌが勝手に団員の練習時に指揮をしたことに、わたしが怒って指揮者をおりると言った時など

引きとめもせずゴヌを選ぶと言った。強情っぱりな奴。

わたしのやり方に団員が反発してもめた時、団員が退団しようとするのを回避するため、

わたしが自分を曲げ折れようとしたことを、自分のことのよう悔しがって泣いた。

どんなに突き放しても、わたしを好きだと言って、すっかり心を乱されたんだ。

いつもの自分を乱されて、わたしが耐えられなくて別れ話を言い出すと、わたしを許すように微笑んでいた。

最後には市長との対立に嫌気がさし、市響を見放してソクランを出て行こうとしたわたしを引きとめ

卑怯者にしないでくれた。自分でも聴力を失いそうな大変な時だったにもかかわらずだ。

作曲を勉強することにしたと言い出した時は、本当の歳よりも何倍も生きてきたような顔をしていた。

そんな表情を浮かべるルミにわたしのほうが、大人の癖に迷ってばかりいると思わされたんだ。

出会ってから、たったの半年。だのに、忘れられない。

変わっていかなければならないのは自分だった…


 とりとめなく考えていたら、散歩の途中入った専門書店でたくさんの本を手に取っているのに自分で驚いた。

作曲に必要な専門書ばかりだった。返して回るのもおかしなものだと思い、ルミに送る手続きをとった。

店員に

「送り主のお名前はなんと?」

と訊ねられて、はっとした。

『こんなものを送ったところで何になる?』

独りでがんばろうとしているルミに余計な期待をもたせるだけだ。いや、違う。ルミはそんな期待はしないだろう。

自分の方だ。こうやって、いちいち自分らしからぬことを考え、行動してしまう自分自身。

そんな自分に自分で戸惑い、不安になっている。



遠く離れた場所から、一歩踏み出せるだろうか。

ごく、あたりまえの人としての感情に向きあえるようになって、いつかまた出会える時があるだろうか。


 ルミのところに送り主のわからない本が届けられたのはそのすぐ後だった。

 

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/6/15 14:04 | 最終変更
koguma  レギュラー   投稿数: 959
そう、ルミはカンマエのある意味偉大な理解者でしたね。

他の皆がカンマエに対して怒っている時でも、ルミだけは、カンマエの真意を読みとっていました。

ドラマの最初の方で、カンマエは「ドイツに帰る」と言った自分に、ルミが引き留めないことに苛立っていたけれど、ルミはカンマエのそういう心までも見抜いていましたね。

皆に謝罪すると言った時、作り笑いで話すカンマエの心の苦しさを感じて号泣していましたね。



そんなルミに、カンマエはいつの間にか心を開きいていきました。

ドラマの中では、ルミに対する声のトーンまで変わってましたから。



「そうか、お前もうれしいか。」



トーベンに話しかける言葉の中にカンマエの「想いが込められていますね・・
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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/6/20 8:44
yuson  管理人   投稿数: 3020

カンマエとルミの間に流れた半年の時間は
 振り返ってみれば色々あったけれど
 濃い時間だったのだなぁ。。
 とお話を読んでいて、感じました^^

 ふと気づけば、たくさんの作曲に必要な専門書を
 手に取っているカンマエ。
 ルミへの気持ちを感じます。。
 そのたくさんの専門書を名乗らず贈るなんて
 カンマエらしいですね^^

 カンマエらしい愛情表現。。もどかしいけれど
 好きです^^

 カンマエが遠く離れた場所から、一歩踏み出せる日が
 めぐって来ますように。。。 
 
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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/6/20 22:13
hiroko  レギュラー   投稿数: 53
kogumaさま☆ yusonさま☆

読んでくださり、メッセージもありがとうございます。
恋の障害が自分自身だなんて…
悲恋以外の何物でもない―

早く、マエには克服して欲しい気持ちです。
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