もう一度、『ベートーベンウイルス』…はじまりの交響曲9

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .3 | 投稿日時 2013/6/22 23:10
hiroko  レギュラー   投稿数: 53

ソクラン〜Discord



 それからの数日、ルミは届いた本に没頭した。そうするとゴヌの才能への嫉妬も忘れた。

カン・マエという人がいる。そう思うだけで勇気が出た。

『わたしは知っているじゃない、音楽という才能が物言う世界で才能と競い合うことに覚悟を決めたひと。』

マエにはずっとチョン・ミョンファンという天才がライバルとして存在し続け、比較され続けた。

だが、マエは天才を間近でみてやる気を失うどころか、かえって闘志を燃やす。

夢を『才能』と言う言葉で諦める人ではない。

だから、ルミはマエを信じることができる。そのマエを好きでいる自分も…

『わたしもわたしの思いを曲にすることしかできないんだ。わたしにはわたしのやれることにしかできない。』


夜遅くまで本を読み、病室にこもるルミの様子に病院のスタッフは心配した。

だが、ルミは休むように忠告されても聞く耳をもたなかった。

退院を前に、ルミは術後の検査があった。

スタッフが病室に呼びに行っても、まだルミは楽譜に向かったままだった。

「ルミさん、先生がお待ちですよ。すぐ準備して行きましょう。」

声をかけられルミはしぶしぶ、準備しようと立ち上がった。

ところが急に目眩を起こしその場に倒れてしまった。


ルミが気がついたのはベッドの上だった。

気がつくとドクターやナースが心配そうにのぞきこんでいる。

『わたし…』

不安になっていると、シヌが覗きにきた。

「だから、無理するなって言ったでしょう。」

「わたしどうなったんでしょう?」

「ルミさん!睡眠不足ですよ夜も寝ないで、勉強していたんでしょう?

少しはわたしたちに、頼ったり、悩み事を話してください。独りで頑張り過ぎないように。」

シヌがルミに釘をさした。


 

ゴヌは大学の大ホールで、学生たちで構成されるオーケストラの前にいて、今まさに指揮をはじめるところだ。

午後からは大学のオケで実際に指揮をして学ぶためだ。

しかし、依然のような伸びやかで明るいゴヌはそこになかった。大学で指揮をしているゴヌの表情は険しかった。

ゴヌの指示が上手くみんなに伝わらないためだ。

誰も表だってゴヌに何も言わないが、ゴヌの指揮時はオケの態度が冷ややかだ。

もちろん、ゴヌの実力は誰もが認めるところとなっていたし、明るいゴヌに友人もできていた。

だが、ゴヌを妬んでいる者もいたのだ。

ゴヌをおもしろくない学生は、マウスフィルと活動していることも陰で噂しあった。

「アマチュアオケと一生懸命やっていればいいんじゃない?」

「わたしたちと、アマチュアオケの人たちと同じように思って貰っちゃ困るよね。」

ゴヌのほうはどうしても、納得いく演奏にならないのに苛立っていった。

ゴヌが苛立てば苛立つほど皆との間に距離はひろがるばかりだった。

「喧嘩にもならない嫌がらせにどう対応すればいいんだよ!」

ゴヌには思いつかないまま、時間ばかり過ぎた。入学してずっとこの調子だった。

ゴヌには、嫉妬されたり、拒絶されたりなど今までの人生で皆無だった。

目立つことなど好まなかったし、まして、この年で指揮者などという絶対的な立場に立つとは

去年の今時分には想像もしていない。

だが今のゴヌにとって音楽は唯一心が沸き立つ情熱を傾けられるものになっていた。

どの学生よりも真剣に学びたいと思っているのに、何かに絡めとられる気がする。

確かに、ほかの学生が幼少期から音楽を学んできたことにプライドを持つのはわかる。

かといって、自分にむけられた敵対心に納得はできない。

ゴヌはほとほと嫌気がさした。曲がったことが嫌いな性格がそれを許せない。

正々堂々と演奏の実力で向き会うのにはどうしたらいい?

『先生とやりあっていたほうが、まだましだったな。あの人、その辺の感情ごまかさないからな。

先生がオケともめた時、どうだったっけ。まったく、どうすりゃいいんだ?』

どうするべきかわからないまま、大学からマウスの練習に向かった。


それがいけなかった。

普段なら、誰がミスしても、丁寧に説明できる。

だが、今日はできなかった。皆へ八つ当たりしてしまった。

「ちょっと、皆、走り過ぎだよ。ヨンギさん、もっとみんなの音を聴いて。」

「あっ、すまん。」

「それに、おばさん!音出てないよ」

「ごめんなさい。難しくて自信がなくて…」

「ジュヒさんとジュヨンさんは力み過ぎ。もっと、柔らかに!何度も言わせないで!」

「不機嫌に振り回されるのはごめんだな。」

ヒョッコンが呟いた。

ゴヌはそれを聞き逃さなかった。ヒョッコンにくってかかった。

「俺は指揮者なんです!もっと良くみて、指示に従って!」

「もちろん、指示には従うさ。だが、今日のお前はどうかしてるぞ。

確かに俺たち、実力はまだまだだがかなり練習してきた。その成果は俺の耳にだってわかる。

いつものお前ならまず、それをわかってくれただろう。」

ゴヌは痛いところを突かれた気がした。ヒョッコンはまだ続けた。

「俺だって馴れ合いを望んでる訳じゃない。ダメならダメと本当のところをいってくれて結構さ。

厳しいのだってカン・マエで慣れてる。

だけど、今日のはお前のスタイルじゃないだろ?」

俺のスタイル…

「ゴメン。ヒョッコンさん。みんなも。本当はみんな随分良くなってる。

かなり練習してたんだね。わかってたのに…ちょっと、俺どうかしてる。頭冷やしてくるよ。」

ゴヌは肩を落として、練習場を出ていった。

 

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/6/26 8:52
yuson  管理人   投稿数: 3020

hirokoさん こんにちは〜^^

第9話<ソクラン〜Discord> ルミの心の中。。ゴヌの環境と心の葛藤。。が心に染みて、何度もここへ来て読み返していました^^

名乗らず贈ったカンマエの気持ちが込められた本がルミを1歩前に
導くことができて、良かった〜〜♪

ゴヌは。。やはり中々に厳しい環境にいたのですね。。
大学の学生達には、ゴヌの持って生まれた才能が簡単に受け要られる環境ではないですよね。
才能を分かっていても素直に受け入れられない学生達の葛藤も
わかる気がします。。
その、嫉妬、ねたみに葛藤するゴヌの気持もよ〜くわかります^^

気心知れた仲間に、自分の葛藤からくる八つ当たりの行動を
指摘され、【ゴメン】と素直に言えるゴヌが大好き^^

カンマエがオケともめた時。。謝罪しようと試みて。。
でも、自分のスタイルを貫く気持を取り戻したシーンは
泣けました。。。

【わたしにはわたしのやれることにしかできない。】
【俺のスタイル】
。。伸びやかに、明るく、前向きに歩を進めるための
キーワードですね^^

 
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hiroko  レギュラー   投稿数: 53
yusonさま

いつも暖かいコメントありがとうございます。

人にうらやましがられるほどの才能を持っていながら、同時に孤独も感じてしまう。才能を持つ人はそうなのかもと思い、ゴヌがどう向き合うのか…
今、悩み中です。

ちょっと話を書き換えることになりそうです。
次のお話までしばらくお時間ください。
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